日々是考察、本日の経営者は丸田芳郎(まるた よしお)。1970 年代から 1990 年代にかけて花王を率い、石けん・洗剤の会社を、化粧品や情報媒体まで広がる「技術の会社」へと変えた人物です。打ち手は数多いものの、組織論の視点で見て一番おもしろいのは、情報を全員で持つことを組織の設計思想にした点です。

「大部屋」——情報を隠さない組織

丸田時代の花王は、役員にも個室を与えず、フロアを一つの大部屋にしました。会議の議事録も、商品開発のデータも、原則として誰でも見られる。情報を一部の人が握って権力にすることを、構造から禁じたわけです。

情報を持つ者が偉い、のではなく、情報は持って当たり前。その前提が、肩書きより「考え」で動く組織をつくる。

これは単なるオープンな社風の話ではありません。意思決定の速さを、人の善意ではなく仕組みで担保する設計です。

なぜ情報共有が強さになるのか

組織が大きくなると、情報は自然と部署や階層に「溜まり」ます。溜まった情報は、調整コスト——つまり「誰に聞けばいいか」「許可を取る往復」——に化けます。

花王のやり方は、この調整コストを先に潰す発想です。全員が同じ情報を見ているなら、現場が自分で判断でき、上にお伺いを立てる回数が減る。後に野中郁次郎らがナレッジ・マネジメント(知識を組織で生み出し共有する経営)の好例として花王を挙げたのも、この「知が現場で循環する」構造ゆえでした。

情報を抱える組織 情報を共有する組織
判断のたびに上へ確認 現場で判断できる
情報の差が権力になる 考えの質で評価される
部署最適に陥りやすい 全体像を全員が持てる

TCR——全員がコストを見る

丸田は TCR(Total Cost Reduction) 運動も推し進めました。コスト削減を経理部門の仕事にせず、原料・製造・物流・販売の全工程を全員の視野に入れる。これも「情報を全員で持つ」思想の延長線上にあります。コストという情報が一部に閉じていれば、改善は一部でしか起きないからです。

今日の一考

  • 丸田芳郎の核心は、情報共有を個人の心がけではなく組織の構造にしたこと。
  • 情報を開くと、調整コストが減り、判断が現場に降りる。
  • 「誰が情報を持つか」は、そのまま「誰が決められるか」になる——組織を設計するとは、情報の流れを設計すること。